起業と運の科学:幸運は”技術”であるラーニング アクション ナカマチ
起業の成功物語において、「運」は常に重要なファクターとして語られます。しかし、その「運」の正体とは一体何なのでしょうか。単なる偶然や気まぐれな幸運の女神の微笑みなのでしょうか。近年の心理学や社会科学の研究は、運が単なる偶然ではなく、特定の思考様式や行動パターンによって育むことができる「技術」であることを明らかにしています。

「幸運な人」の4つの基本原則
運に関する最も著名な研究の一つに、英国の心理学者リチャード・ワイズマン博士による10年間の大規模な調査があります。彼は「自分は運が良い」と考える人々と「運が悪い」と考える人々の間に、偶然では説明できない明確な行動と心理の差があることを発見し、それを「運の4つの原則」として体系化しました。これは、起業家が実践すべき具体的な指針となります。
1. チャンスを最大限に広げる
ワイズマン博士の研究によれば、幸運な人々は外向的で、新しい経験に対して開かれており、リラックスした姿勢でいる傾向がありました。この特性が、偶然のチャンスに遭遇する確率を物理的に高めていたのです。
- 多様なネットワークの構築: 運の悪い人は、決まったコミュニティに留まりがちです。一方、幸運な起業家は、異業種交流会やセミナー、趣味の集まりなど、意識的に多様な人々と接点を持ちます。どこにビジネスのヒントや未来のパートナーがいるか分かりません。
- 「開かれた好奇心」: スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱する「計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」もこれを裏付けています。キャリアは計画通りに進むものではなく、予期せぬ出来事を学びと成長の機会として積極的に活用することで形成されるという考え方です。一見無関係に見える情報や出会いにも好奇心を持つ姿勢が、画期的なイノベーションの種となります。
2. 直感に耳を傾け、心の声に従う
幸運な人々は、論理だけでなく自らの直感や「胸騒ぎ」を意思決定の重要な要素として信頼していました。
- 直感は経験のデータベース: 直感は非科学的なものではなく、脳が過去の膨大な経験や知識を瞬時に処理した結果生まれる判断です。起業における重要な決断、例えば提携先の選定や投資の判断において、データ上の合理性だけでなく、自らが感じる「何か違う」という感覚は、将来のリスクを回避するための重要なシグナルとなり得ます。
- 心のノイズを減らす: 幸運な人々は、瞑想や自然の中を歩くなど、意識的に心を静める習慣を持っていました。これにより、日々の雑音に紛れた微細な心の声や潜在意識からのメッセージを捉えやすくなります。
3. 幸運を期待する
プラセボ効果が示すように、人間の期待は現実に大きな影響を及ぼします。ワイズマン博士の研究でも、幸運な人々は「未来は明るい」と信じ、その期待が粘り強さや困難に立ち向かう力を生んでいました。
- 自己成就予言: 「このプロジェクトは必ず成功する」と強く信じることで、その達成に向けた行動が無意識のうちに促されます。このポジティブな期待は、周囲の協力者や投資家にも伝播し、成功の確率を高める好循環を生み出します。
- 諦めない力: 困難に直面しても、「最終的にはうまくいく」という期待を持つことで、粘り強く解決策を探し続けることができます。多くの失敗は、成功する一歩手前で諦めてしまうことによって確定します。
4. 不運を幸運に転じる
人生やビジネスから不運を完全になくすことは不可能です。重要なのは、そのネガティブな出来事をどう解釈し、どう反応するかです。
- ポジティブ・リフレーミング: 幸運な人々は、悪い出来事の中にポジティブな側面を見出すのが得意です。例えば、顧客を失った経験を「製品の改善点を教えてくれた貴重なフィードバック」と捉え直します。心理学で「レジリエンス(精神的回復力)」と呼ばれるこの力は、失敗から学び、より強く成長するための鍵です。
- 比較思考の罠を避ける: 運が悪いと感じる人は、自分よりも恵まれた他人と比較しがちです。一方、幸運な人々は、「もっと悪い状況もあり得た」と考え、現状に感謝することで、心理的なダメージを最小限に抑え、次の一歩を踏み出すエネルギーを維持します。
結論:起業家は運の設計者である
科学的研究が示すように、ツキは天から与えられるものではなく、日々の思考と行動の積み重ねによって築き上げられるものです。起業家は、事業計画を設計するのと同じように、自らの「運」を戦略的に設計し、マネジメントすることができます。
多様な人々と出会うために一歩踏み出し、自らの直感を信じ、未来へのポジティブな期待を胸に抱き、そして何よりも、あらゆる逆境を成長の糧に変える。
この科学的アプローチを実践することで、起業家は単なる偶然の波に乗るのではなく、自ら幸運の波を創り出す「運の設計者」となることができるのです。
ラーニング アクション ナカマチは、ナカマチスタジオを活動拠点として、学びと実践をテーマ―に地域経済の発展に寄与したいと考えています。セミナーは、滋賀県よろず支援拠点とも連携して取り組んでいます。


